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なぜ「男性CA」は少ないのか?|その理由をジェンダー・歴史・採用から読み解く

更新日:6月10日



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キャビンアテンダント(CA)といえば、どこか「女性の仕事」という印象が根強い。事実、現在でも航空会社における男性CAの割合は、国際線・国内線問わず極めて少ない。なぜ「男性CA」は少数派なのか?この問いには、ジェンダー観、職業観、雇用慣行、業界構造など、実に多くの要因が絡んでいる。本記事ではその背景を専門的に分析し、現代社会の偏在する性別規範とCAという職業の関係性を深堀りしていく。


1|「CA=女性」のイメージはどこから来たのか?

キャビンアテンダントという職業は、もともと「スチュワーデス」と呼ばれていた。この言葉からも分かる通り、かつては完全に女性に限定された職業だった。

スチュワーデスという言葉が一般化したのは1930年代のアメリカ。パンアメリカン航空が初めて女性客室乗務員を採用したのが始まりで、当時の基準では「未婚」「看護師資格保有」「一定の容姿水準」が採用条件だった。つまり、CAは航空機内での安全補助だけでなく、「航空会社の顔」としての美的要素や接遇力を期待された「演出的役割」を担っていた。

こうした時代背景により、CAという職業には長らく「若く、清潔感があり、愛想のよい女性」という固定観念が付与されてきた。この文化的背景が現代でも「CA=女性職」とする刷り込みを温存しているのだ。

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2|ジェンダー・バイアスと職業選択の構造的制限

日本の教育・社会構造では、性別による職業のイメージが根強く残っている。これは、理系=男性、看護師=女性といった「ジェンダード・キャリア観」としても広く知られる。

この観点から見れば、CAは「女性的特性(共感性、気配り、柔らかさ、サポート力)」が求められる職業と捉えられており、「男性的特性(リーダーシップ、判断力、指示力)」を美徳とされてきた男性にとっては“選択肢に入りづらい”状況が続いている。

また、進学指導や就職支援の場においても、男性がCA志望を表明すると、教師や親が「他にもっと向いてる職がある」と“軌道修正”する例は今なお多い。職業的ジェンダー・バイアスが、実質的に男性CAの出現を妨げている側面もあるのだ。



3|航空会社の採用と昇進構造:見えない壁

航空会社の採用方針にもジェンダー構造が反映されている。表向きは「性別問わず公平な採用」となっているが、実際には以下のような要因が働く。

  • 応募者数そのものが女性に偏っているCAは就職人気職種ランキングでも常に女性の上位に位置するが、男性では圏外である。結果的に倍率も男女で乖離が生まれ、母集団のバランスが崩れる。

  • 男性CAのロールモデルが少ない「先輩がいない」職場では、採用や昇進も消極的になる傾向がある。実際、男性CAの昇進先はチーフパーサーやトレーナーなど限られており、社内での存在感も薄い。

  • 「サービスよりも操縦か整備」への振り分け男性志望者の多くは、同じ航空業界であってもパイロットや整備士など「技術職」や「運航職」への志向が強い傾向がある。航空会社側もこの傾向を前提に、人材配置を最適化している。


4|世界の潮流:男性CAが一般的な国もある

一方で、世界に目を向けると、男性CAが多数を占める例もある。たとえば中東のエミレーツ航空やカタール航空、あるいはヨーロッパのLCCでは、乗客対応の面で性別よりも多言語対応力やフィジカルの強さが重視される傾向がある。

また、アメリカでは同性愛者の社会的可視化と相まって、男性CAが性的マイノリティのロールモデルとして登場する例もある。これは日本とは異なる社会受容性の賜物である。



5|今後、男性CAは増えるのか?

最近では、CAの役割が「接客」だけでなく、「安全管理」「緊急時対応」「多国籍サービス調整」などに重きが置かれており、より中性的・中立的なスキルが評価されるようになってきている。これにより、今後は性別に関係なく「能力基準での採用」が進む可能性は十分にある。

また、多様性(ダイバーシティ)推進の文脈からも、男性CAの登用は「多様な顧客に対応できる人材」の一部として、企業のブランディングに資する。今後、航空業界の多国籍化・柔軟化が進む中で、男性CAの必要性はむしろ増していくと予測される。



まとめ|「なぜ少ないか」は「なぜ選ばれないか」ではない

男性CAが少ないのは、単に「人気がないから」ではなく、「社会構造・教育・企業文化」が無意識にその芽を摘んできた結果でもある。そこには、「CA=女性的役割」という前時代的なイメージが横たわっており、個人の職業選択を無意識に制限している現状がある。

これからの社会に求められるのは、「性別にとらわれず、誰でも自分の希望する職業を選べる自由な空気」だ。CAという職業が、真にジェンダーニュートラルな職業となる未来に向けて、今こそ私たちは問い直す必要があるだろう

 
 
 

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